平成二十六年度 長崎県立西彼杵高等学校
   第六十七回入学式式辞

暖かな春の陽射しに、角力灘の海の青が一段と輝く、今日のこの佳き日に、多数の御来賓の御臨席をあおぎ、ここに、長崎県立西彼杵高等学校 第六十七回入学式を挙行できますことを、大変うれしく、光栄に存じます。

 ただいま、平成二十六年度入学生五十三名の入学を許可いたしました。
 新入生諸君、入学おめでとう!教職員、在校生一同、みなさんの入学を心より歓迎いたします。また、保護者の皆様におかれましては、九年間の義務教育課程を終了し、本日めでたく高等学校への入学を迎えたお子様の、清々しく、成長したその姿を御覧になられ、誕生の日から今日までの子育ての日々を振り返りながら、親としての感慨もひとしおであろうと拝察いたします。心よりお祝いを申し上げます。

 さて、本校は、昭和二十一年、長崎県最後の旧制中学、長崎県立西彼杵中学校として設置認可された、本県でも有数の歴史と伝統のある高等学校です。本日入学された一年生が三年生となる再来年度には、創立七十周年を迎えます。人間で言えば「古希」にあたるこの長きにわたる歴史の中で、本校は実に有為な人材を長崎県だけでなく、全国に輩出してまいりました。人口減少の中で、現在規模は小さくなってはおりますが、その命脈は、脈々と生き続けております。

 本校を自ら選び、入学した皆さんには、これからの生活を、未来への希望に満ちた三年間にしてほしいと願ってやみません。私たち西彼杵高校の職員一同は、そのために、みなさんを全力で導き、応援していく所存です。

 石川啄木という有名な歌人に、次のような歌があります。

      不来方のお城の草の上に寝て空に吸われし 十五の心

 不来方のお城とは、岩手県の盛岡城を指します。十五歳の啄木は、貧しくつらい生活を強いられていたある日、不来方城の草原に寝ころんだところ、自分の心が空に吸われていくように、どんどんどんどんと広く、高みに登っていったという青春期の心を、大人になってから回想して詠んだ短歌です。

 十五歳の、少年から青年にさしかかる時だからこそ感じることのできる大志を抱く心を、実によく詠み込んだ歌だと私は思います。どこまでも自分の心が、理想を目指して空の高みに登っていく。やっと少年の時に終わりを告げ、まさに青春の入口に立つ者の、今ここから、一人の青年として、一人の人間として、自分はこれからどのように生きていくのか。自分はどのような人間としてあるべきなのか。言いしれぬ不安や恐れを抱きながらも、一歩一歩大人に近づいていく自分自身の、未来へ向かっての理想や希望が、どこまでもどこまでも空に向かって、吸い込まれていくように上昇していく。そのような想いをつづった歌だと思います。いまのみなさんの心と、とても近い想いを代弁していると言えるのではないでしょうか。

 いま、みなさんは、まさに少年の心との決別の時を迎えているのです。そして青年としての新しい自分との出会いの時を迎えているのです。

 いま、入学に際し、私がみなさんに望むことは、「理想を掲げよ」ということです。「自分自身の志を立てよ。」ということです。自分はどのような人間になりたいのか。自分自身は、どのような生き方をしていきたいのか。そして、それを実現していくためにこそ、学問があるのです。本校で学ぶことの意義があるのです。

 角力灘の向こうにある水平線では、空と海が一つになります。まさに天海合わさる広遠な高みに、各自の理想を掲げながら、日々研鑽してほしいというのが願いです。

 もちろん、青春ははじまったばかりです。失敗することもあるでしょう。悔しくて涙を流すこともあるかもしれません。しかし、大切なことは、失敗しないことではなく、失敗をしても、自分自身を投げ出さず、そこから大切なことは何かを学び、さらに自分自身をより大きく、より高く、成長させていくことです。そのためにこそ、人は学ぶのだといっても過言ではありません。

 若いときには往々にして、自分は一人であると孤独感にさいなまれることがあります。しかし、この学舎には、友がいて、そして先生方が見守っていることを忘れないでください。

 本校の校訓は、「誠実・克己・気迫」であります。
 「誠実」とは、真摯に、真剣に自分自身の心と向かい合うことです。本校の入口には、第二代校長 森永種夫先生の、「静かに思えば、今日も悔いあり」ということばを刻んだ碑があります。一日、一日を大切に、自分自身をごまかさずに、自分の足りないところを見つめ、常に悔い改めていくところに、真の成長があります。冷静に自分自身と向き合う「誠実」の尊さを、学んでもらいたいと願っています。
 「克己」とは、自分自身の弱い心に打ち勝つということです。人は誰でも、自分自身の我執や欲望と闘わなければならない存在です。自分自身の甘えや弱い心を、鍛えて克服していく。とても難しいことではありますが、その己に打ち克つという強い意志を育てていくために「学び」はあるのです。それは同時に、他人への思いやりや優しさを育てることにも通じていくはずです。
 最後に「気迫」であります。「気迫」とは、何事にも屈せず立ち向かっていく強い精神力のことです。

 自分の理想や志を実現しようとする間には、幾多の困難や失意を経験することでしょう。青春期は、傷つき、悩む時代でもあります。しかし、その辛苦の時にこそ、人は成長するのです。その苦しいときにこそ、気迫と情熱をもって乗り越えていってほしいと思います。

 以上 校訓に即して私からの期待を述べましたが、改めて、伝統校の生徒としての誇りと自覚を持ち、豊かな未来を切り拓くために、自ら学び、考え、行動できる逞しい人間へと成長すべく、日々主体的に、研鑽努力を積み重ねてくれることを願っています。

 最後になりましたが、保護者の皆様へお願いいたします。私ども教職員一同、かけがえのないお子様をお預かりする責任の重大さを痛感し、皆様の御期待に応えられますよう、全力を尽くして参る所存ですが、子供たちの健やかな成長のためには、保護者の皆様のお力添えが、どうしても必要でございます。保護者の皆様には今後、ますます、本校の教育活動に御支援と御協力を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

新入生諸君、本校での三年間が、空と海が織りなす角力灘の美しい水平線のように、若者らしい広大な夢と希望に満ちた、実り多きものであることを心から願い、入学式の式辞といたします。

         平成二十六年四月八日    長崎県立西彼杵高等学校校長 福 田 鉄 雄