平成二十六年度 始業式 校長訓示 四月八日
 
 いよいよ、新しい平成26年度が始まりました。

 今日から、それぞれが新しい学年に進級したところですが、心の準備は大丈夫ですか。覚悟はできましたか。春休みの間に、昨年度の振り返りは充分にできたでしょうか。新しい年度に向けた、新たな目標はもう決まりましたか。

  新3年生にとっては、いよいよ高校生活最後の年となります。言うまでもなく、これからの自分の進路を決定するという自分の長い人生に於いて、とても重要な一年となることは間違いありません。自分なりの「 志 」をしっかりともって、努力を積み重ねてもらいたいと思います。もちろん、何事も自分の思い通りになるとは限りません。目の前に大きな壁が立ちはだかることもあるでしょう。現実の厳しさに涙を流して天を仰ぐこともあるかもしれません。しかし、大切なことは、その時です。その苦しい時こそ、どのような自分があり得るか、その中から、どのように新たな「 志 」を持ちうるのかということが最も大切なことなのではないでしょうか。苦しい時が伸びる時なのです。努力することは決して人を裏切りません。目には見えないかもしれない人間の根っこのところで、自分を何倍も強く、大きくしてくれるはずです。それが豊かな人生に繋がるのです。その意味でも、今年一年は自分という人間を、来たる社会へ旅立つ前の、大きく成長させる年でもあります。今年こそ、一人一人にとって、本校の校訓である「 誠実、克己、気迫 」の真の意味が問われることとなるでしょう。3年生各人の健闘を祈ります。
  
  新2年生は、中堅学年として、勉強はもとより、部活動や学校行事などに於いても、この西彼杵高校の代表としての責任が問われることになります。新しく入ってくる1年生の、良き模範となって頂きたいと思います。

 西彼杵高校の生徒は非常に挨拶が素晴らしく、ボランティア活動も盛んな学校だと聞いています。他者を大切にする精神に富んだ生徒たちがたくさんいるという素晴らしい学校です。他者を大切にすることができるのは、自分自身を大切にしているからだと思います。3年生と同じように、自分なりの未来へ向けた「 志 」をしっかりと見つめ、日々学びに努力して、昨年よりも何倍も青年として成長して欲しいと思います。

 さて、年度の冒頭に当たり、私は、皆さんに、次の詩を紹介したいと思います。茨城のり子という詩人の「自分の感受性くらい」という詩です。有名な詩なので、知っている人もいるかもしれません。

          自分の感受性くらい    茨木のり子

        ぱさぱさに乾いてゆく心を
        ひとのせいにはするな
        みずから水やりを怠っておいて
        気難しくなってきたのを
        友人のせいにはするな
        しなやかさを失ったのはどちらなのか
        苛立つのを
        近親のせいにはするな
        なにもかも下手だったのはわたくし
        初心消えかかるのを
        暮らしのせいにはするな
        そもそもが ひよわな志にすぎなかった
        駄目なことの一切を
        時代のせいにはするな
        わずかに光る尊厳の放棄
        自分の感受性くらい
        自分で守れ
        ばかものよ

私たち弱い人間は、自分がうまくいかない時は、すぐ誰かの、何かのせいにしてしまいがちです。人のせいにしたり、友人のせいにしたり、はたまた親や兄弟などの近親のせいにしたり・・・。最後には、暮らしや時代のせいにまでしてしまう・・・。しかし、そのようにいつも何かの、誰かのせいにしているということは、「わずかに光る(自分の)尊厳 」を放棄することに他ならないのだとこの詩人は言います。< 尊厳 >とは、ここでは自分自身の <  生きている価値>とか <  存在証明 > というほどの意味でしょう。自分がうまくいかないことを何かのせいにしてしまうことは、自分が自分であることを放棄することと、自らの存在を投げ出すことだというのです。では自分が自分であることの根本は、何かといえば、自分の心の感受性であるのだと。自分が自分であることの究極の存在証明は、自分自身の思想も含めた感受性であると詩人は言います。大変重たい言葉です。これほど自分自身を厳しく見つめる言葉はそう多くはありません。どうか、この一年は、自分自身の心としっかりと冷静に向き合って、自分自身の感受性を大切にして、自分なりの目標に向かって、自分なりの志を、みんなと力を合わせながら、日々研鑽して欲しいものと思います。この学校の先生方は、県下でも指折りの素晴らしい先生方ばかりです。分からないことや、辛い時には、先生方に相談してください。そしてこの年度の終わりには、一回りも二回りも成長した自分に出会いたいものです。 皆さんの健闘を祈ります。

                平成二十六年四月八日 長崎県立西彼杵高等学校長 福 田 鉄 雄